InterView07 Xiao Mage [Xiao Mage & Cheng Zi Workshop] from Beijing

これは、女性アーティストの『世界の終わりとハードボイルド』という本です。タイトルは、村上春樹の同名の小説に由来しています。その小説の内容とは関係ないのですが、アーティストが村上春樹のファンなので、この名前をつけました。タイトルの持つ意味がとても好きなのです。また、このタイトルからは、なんだか遠くのことのような、距離のようなものを感じました。なので、デザインをつくるときにも、わざとぼかしを使って、見えるか見えないか、曖昧な距離感を中国の伝統的な造本の方法とともに試みました。


普通の本は1ページにつき紙が1枚ですが、折った紙の内側にもう1枚の紙をはさむことで、二重にしています。中身の紙は、外側の柔らかい紙とは異なる固い紙を選びました。厚紙を入れることで、本自体が柔らかくなりすぎず、弾力のある手触りの良い本になりました。
この本は、中国の弓からアイデアを得ています。西洋の弓はひとつの素材だけでつくられているのですが、中国の弓は、木材や牛革など、さまざまな材質を使って、複合的につくっているのです。
後藤:ひとつの弓をつくるのに、たくさんの素材を使っているんですね。
シャオマグ:そうです。中国の弓の構造のような考え方で本をつくりました。これを複合ページと呼んでいます。中身の紙は、1センチほど短くしているため、ページをめくるときに、柔らかい手触りを感じることができるのです。

中面、外面は複合記号のみ印刷されています。このページを見ていくと、記号と文字を通して、空間を感じることができる。存在感があるとも言えます。アーティスト本人も、「本を見ているとき、記号が飛んでいるように感じた」と言ってくれて、とても嬉しかったです。
原田:機械ではなくて、手で製本しているんですよね?
シャオマグ:折るのは手ですが、実際は機械です。
後藤:打ち合わせのときに聞いたのですが、印刷所に気を使って、機械を操作している人にジュースを差し入れたりしているらしくて。でも、難しい印刷ばかり頼むので、嫌がられて、どんどん違う会社にしないといけなくなっているそうです。
原田:北京で使える印刷会社がなくなってしまう(笑)。
シャオマグ:今は、印刷会社にもよく理解してもらっています。印刷会社のオーナーは、シャオマグの仕事をするとあまり儲けがでないけれど、お客さんが来たときに、「この本はあなたの会社でつくったのですか? 」と、みんなびっくりしてくれるそうです。なので、ほかのクライアントさんからも、依頼が来るようになりました。
原田:どんどん印刷会社が儲からなくなる(笑)。
シャオマグ:儲かってはいませんが、クライアントは喜んでくれています。

シャオマグ:これは、パンダのイラストを集めた作品集です。このアーティストは、よくパンダの絵を描いているんです。表紙には、パンダの毛を表すため、フロッキー印刷をしています。この本は、黒と白と緑の色違いの表紙をつくりました。黒と白はパンダ、緑は笹をイメージしています。
後藤:3冊で1セットですか? それとも別々に販売していたのですか?
シャオマグ:どれも内容は同じなので、表紙違いの3種類として、別々に販売しました。版は同じなので、値段も同じです。


なかは全部同じキャラクターのイラストです。1ページ目は、キャラクターの紹介。この本に出てくるイラストは、作品の一部分からトリミングしました。ひとつの作品の中に、さまざまなキャラクターが描かれており、一つひとつが目立たないので、個々を抽出して使いました。ストーリーもアーティストに書いてもらい、内容を豊富にしたんです。このアーティストは、とてもこだわりがあり、物事に筋が通っている。その様子を表すため、表紙のビジュアルは、一筆書きでつくりました。


この本は、2008年につくった本です。最初から最後までつながっています。すべて開いていくと、ギャラリーの壁と同じように見える。ただのじゃばら折りではなく、伝統的な製本方法を用いて、少し新しいやり方を試しました。
このアーティストはいつも人物の臓器を描いているので、表紙の文字も、大腸をイメージしています。

これは中国の有名なデザイナーの展覧会「Get It Louder」のために、2007年につくった本です。イギリスで活躍している各国のデザイナー、14人を紹介しています。この本では、「読む感覚」に対して挑戦するデザインをしました。
個々のデザイナーを紹介するページは、緑色の薄い紙を使いました。その後のページに別の人からの紹介文があり、次は作品紹介。すべてのデザイナーがそういった構造で紹介されているので、興味がなければ次の緑のページへ飛べばいいわけです。
後藤:『アイデア』で紹介されていて、どういう本なのか気になっていたんです。

シャオマグ:この本の4面は、すべて違う手法でつくられています。手で触ったときに、すべて異なる感触になるようにしているんです。タイトルは、『慢慢走路』。ゆっくり歩くという意味です。中国文化圏の有名小説家9人に、中国で有名になった9つの新しい建築をそれぞれ回って観察してもらい、小説を書いてもらいました。この9つの建築は、南は深圳、西はチベットにあります。参加した建築家は中国人だけではなく、広州のものはザハ・ハディット、深圳はスティーヴン・ホールなど、海外の有名な建築家も選ばれています。この仕事をいただいたときに考えたのは、建築と小説をどのように組み合わせるか、その関係性を考えました。建築と小説、どちらかに偏りすぎないようにしています。建築は実在するもので、小説は精神的なもの、ふたつが対極にあるのだと言えます。小説と建築の関係性を考え、点・線・面を意識してデザインしました。


この本では、異なる種類の紙をたくさん使っています。建築のように、いろんな材質の違う紙を使って大小をつけ、組んでいます。建築を紹介するページでは、その建築に合わせて紙質を変えていて、小説のページは全部同じ紙を使っています。マップも、グーグルマップをそのまま入れても見にくいので、それぞれの建築に合うようデザインしました。建築が建てられた年などの、概要データも掲載しています。はじめに提供されたのは、小説の資料と建築の写真だけで、建築の写真と小説だけしか載っていない本だったらつまらないなと思い、建築の情報をもっと載せれば、読み手ももっと理解できるようになると考えました。

そのほかにも、建築家のスケッチなどを入れています。ここでも、スケッチのスタイルによって紙質を変えており、筆で描かれているものは、水墨画に使う紙を使うなど工夫しました。この本の執筆者は、それぞれに要望があり、編集するのがすごく難しかったですね。もっと自分の作品を出してほしいとか、小説のなかにあまり建築のことが書かれていなかったり、ある1人の建築家は、この本をつくるプロセスを知りたいと言ってきたりしました。
小説家が建築を見にいったときの記録写真も挟み込んでいます。写真の裏側には、小説家がどのようにして、その建築にたどり着いたのか、その行程を書いています。例えば、電車に乗ったとか、車に乗ったとか。
後藤:実質1週間から10日間くらいでつくったなんて、すごいですね。
シャオマグ:デザインを考えられたのは20日間のみ。文章の修正を同時並行で進めていました。オープニングに間に合うように、原稿の一部分を持って飛行機に乗って、翌日にチャンズが残りの原稿を持って飛行機に乗りました。印刷会社に1週間くらい泊まって、寝ないで作業していましたね。印刷会社の社長が夜帰るとき「そろそろふたりも帰るのかな」と思っていたけれど、翌日の朝もいて驚いたと言っていました。プリントの修正やスキャンなど、すべて2人でやりましたからね。夜は時間が長くて助かります。後藤さんもそういう感じですよね。
後藤:僕も昨日、朝の3時くらいにメールしてしまいましたね(笑)。
シャオマグ:この2日ほど、あんまり寝てないです(笑)。デザイナーはみんな大変です。頭が動かないと、身体も動かないから、デザイナーはやっぱり体力をつけないといけないと、周りの人も言っています(笑)。