InterView02 Javin Mo[Milkxhake] from Hong Kong

質疑応答

後藤:それでは、会場からも質問を受け付けたいと思います。

質問者1:『360°』は各国のデザインが多く含まれていますが、それらの情報はどのようにして集めていますか?

ジェイヴィン:いつも集まって編集会議を行なっているのですが、そこで決まった内容を中心に、リサーチを進めています。また、平均年齢25歳なので、それぞれ自分の好きなことにチャレンジしています。また、中国の若い学生には海外留学経験がある人も多く、そこから情報を得ることも多いです。なかでもフィンランド号は成功した号で、フィンランドに留学していた北京の学生がいたので、3ヶ月の間、彼がフィンランドで編集に携わってくれました。

原田:ほかの号も、実際に取材に行っているんですか?

ジェイヴィン:予算がないので、基本的には電話取材ですね。そういう意味では、フィンランド号は理想的な進め方だったと思います。

質問者2:オランダ号もすごく良かったです。

ジェイヴィン:オランダで勉強する中国の学生が多いですからね。卒業後は、必ずと言ってよいほど、中国に帰ってくるので、そうした人たちと話すのもおもしろいです。

原田:デザインと編集をしていると作業時間がなさそうですが、どのような進め方をしているのでしょうか?

ジェイヴィン:250ページ近いものを、だいたい5日半でデザインしています。

原田:後藤さんだったら、断りそうですね(笑)。

後藤:僕は、いま350ページの本を、あと2週間でデザインしないといけないのですが、それでもちょっと無理かも……と思っています。

質問者3:中国人のデザイナーをどのようにしてリサーチしたのでしょうか? また編集部には何人いらっしゃいますか?

ジェイヴィン:出版社の編集者1人と共同で制作しています。デザイナーのリサーチは、2004年にあった中国の「Get it Louder」というグラフィックデザインの展覧会で若く優秀なデザイナーを知ることができました。8年前に出版しましたが、当時、中国のグラフィックデザインを国際的に紹介したもののなかでは、それまでにないものをつくることができたと思います。

原田:日本でも世界デザイン会議があったとき、いろんなジャンルのデザイナーがつながったそうですが、それに近いのでしょうね。

後藤:昨日お聞きしておもしろかったのが、香港デザイナーの仕事状況についてです。例えば、2日間半や5日間であのくらいのボリュームの印刷物をデザインするとなると、相当な作業量だと思うのですが、デザイン費やデザイナーの立場についてお聞かせください。

ジェイヴィン:香港にとってデザインの黄金期は、1970〜80年代。当時は、経済的にも潤っていて、イギリスの企業がどんどん進出して、そのため能力あるイギリス人がどんどんやってきました。そういった状況のなかから、良いデザインを生む環境が整えられたと言えると思います。香港デザインにとって、とても良い時期でした。20年の黄金期があった後は、1990年代は景気もよくなかったというのと、中国に返還されたことで、将来的な見通しが全然立たなくなりました。それが、1990年代以降にも影響を及ぼしていますね。それ以降は、企業が香港から撤退したり、人も減っていくなかで、広告会社やデザイン会社も減っていき、その結果、ファストフード化していっています。何に対しても、すぐにお金になることが優先されたり、長期的に何かしようと計画するでもなく、すぐに結果が出るようなものしか手をつけなかったという実情がありました。それは、デザインだけに限らず、すべてにおいて同じようなことが起きています。ただ、それが香港のユニークさ、独自のカルチャーになっているんですね。

後藤:そういう状況に対して、いまのデザイナーがプロジェクトを立ち上げたり、何か活動したりという動きはありますか?

ジェイヴィン:若いデザイナーたちは、そういった問題に対してクリエイティブな動きで解決したいという想いを持って、ウェブサイトで自分たちの作品を発表するなど、活発な活動を2000年代からはじめています。

原田:さきほど紹介があったプロジェクトのロゴをステンシルでつくってもらったり、町にある色をテーマカラーに選んだりしている様子を見て、ひとつ質問があります。いま香港では、デザイナーが社会的な課題に対して取り組んでいる事例が多いように思うんですね。例えば、香港デザイナー、ホン・ラムさんたちが仕組みをつくった「SO SOAP!」、マイケル・ラングさんが手がけている「HK HONEY」のようなプロジェクトなど、とてもおもしろいと思っています。そういった活動が、いま香港でどのように見られているかがすごく興味があるのですが、いかがでしょうか?

後藤:少し補足すると、「SO SOAP!」は、シンプルなペットボトルに、町のおばちゃんたちがつくった液体石鹸を入れて、企業などに販売し、その利益が香港の女性の働く環境を変えるために使われています。また、「HK HONEY」は蜂蜜をわざわざヨーロッパから輸入するよりも香港で蜂蜜をつくったらどうかということで、デザイナーのマイケルが屋上養蜂で蜂蜜をつくっているという活動ですね。

原田:ジェイヴィンもそういった活動をすることで、周囲からどう見られているのか。また、自分たちはそれに対してどう考えているのか、聞いてみたいです。

ジェイヴィン:いま香港では、デザインと社会的活動のコラボレーションが徐々に増えていますね。香港の企業が、デザイナーとコラボレーションして、もう少し社会に良いものをつくろうとか、もう少し自然なものを売ろうとか、そういう動きが、ファストフードカルチャーに対抗して出てきはじめている。

その動きはすごく良いと思うし、デザイナーは、日々の仕事をこなすだけだと、デザイナーとして何の価値があるのかということを考えてしまいます。社会に対して自分がどう貢献できるか考えはじめるデザイナーが多くいるのは良いことだと思います。ただ、多くのデザイナーがそういった活動をしようとしているわけではないですね。「SO SOAP!」も、まだまだ意識的な人が行くようなセレクトショップでしか扱われておらず、普通の店には売っていない。そういうものをどうやってデザイナーがデザイナーとして価値づけできるかと、試行錯誤することが良いのだと思っています。

質問者4:デザインを海外で学んで帰ってくる人が多いと思いますが、一度学んでから海外に行くのか、海外にそのまま行って学ぶのか。また、だいたい何歳くらいからデザインを勉強できるのでしょう?

ジェイヴィン:最初の質問は、両方ありますね。大学を卒業して博士号を取得するために行く人もいれば、そもそも大学から海外へ行く人もいます。最近、中国で、学生がすべて企画したという、とてもおもしろいオランダのデザイン展がありました。北京や上海といった大都市ではなく、地方都市のなかでも、すごく熱意のある学生が多いですね。

もうひとつの質問についてです。高校でもアートやデザインを勉強できますが、デザイナーになりたい人は大学から勉強するのが普通ですね。中国には、北京内外から受験する10万人のうち20人しか入れない大学もあります。

質問者5:ジェイヴィンは、日本のデザインについてどのように考えていますか? 私も『typographics ti:』の取材で、ソウル、香港、台北、シンガポール、北京と回ったのですが、特に香港は日本と似ているなと思いました。ジェイヴィンの話は都市や国も関係なく、東京のデザイナーの考え方に似ているなと思ったのですが、いかがでしょうか?

ジェイヴィン:昨年G8のグループ展で東京に行きました。そして、今回は大阪に滞在しています。そこで東京と大阪を比較すると、東京は香港に状況が似ているなと感じました。マーケットも大きいし、デザイナーも多く、競争が激しい印象がある。それぞれのデザイナーは自分のデザインを守り、壁をつくって独立しているように見えたんです。一方で、大阪のデザイナーはオープン、カジュアルでフレンドリーな印象があります。

質問者6:『360°』は現地でどれくらいの価格で販売しているんですか?

ジェイヴィン:『360°』は、45人民元で販売されています。平均的には、30人民元を超える雑誌は、とても高いという印象なので、かなり高いと思います。ちなみに、『VOGUE』の中国版は、30人民元です。『360°』は8000部から1万部発行しているのですが、どこでも売っているわけではなく、大きな都市のちゃんとした本屋でしか取り扱われていません。日本人が1500円でランチを食べに行くような感覚だと思います。

後藤:そろそろ時間となりました。本日はありがとうございました。

ジェイヴィン:ありがとうございました。

編集記録
editorial studio MUESUM(多田智美/永江大)、浅見旬、仲村健太郎
写真記録
Cahier (多々良直治)、入山隆一郎