2013.2.8(Fri.)18:30-20:00
- ゲスト
- Sulki Choi and Min Choi [Sulki & Min] from Seoul
- 聞き手
- 後藤哲也[OOO projects/typographics ti:編集長]
原田祐馬[UMA/design farm,typographics ti:クリエイティブディレクター] - 通訳
- ダンカン・ブラザトン
プレゼンテーション
後藤:今日のゲストは、Sulk&Minです。ようこそ、来ていただいてありがとうございます(会場拍手)。『typographics ti:』誌の制作チームでアジアを旅し、書き手としては素人の僕たちが、その取材の経緯を1冊にまとめようとした最初の号がソウルでした。ですので、2年ぶりくらいに再会できて、感慨深いです。まず、お二人にはプレゼンテーションをしていただきます。
ミン:ソウルから来た、グラフィックデザイナーです。まず、自分たちの作品を紹介したいと思います。
スルキ:自分たちの自己紹介や自画像として、いつもアニメーションを見せています。Sulki&Minがダンスしているようですよね。
後藤:日本人なら、わかる画像かと思いますけれど、これは彼らがつくったものではなくて、インターネットから拾ってきたものです。毎回プレゼンで使っているそうですが、これが何なのかをわかって使っていますか?
ミン:ハイジでしょ? これがハイジだということは憶えているけれど、この男の子の名前は憶えていないですね。
スルキ:この画像を見ると、おもしろいし、楽しい気持ちになる。でも長く見ているとその気持ちも変わりますよね。意味を探そうとするけれど、これには意味がない。でも、瞑想みたいな感じがしていて、使っています。
最初のプロジェクトをご紹介します。私たちが運営しているセルフパブリッシング「Specter Press」のポスターとWEBサイトをデザインしました。ここでは、自主企画の作品も扱っています。私たちが使うメディアはさまざまです。いつも繰り返すテーマがあるのですが、基本的にはバカらしいものに興味があります。また、クリエイティブプロセスのなかで偶然を発見してデザインに生かすことにも興味がありますね。
ミン:デザインとアクシデントは相反するものですが、あえてアクシデントをデザインのなかに組み込むことを試みています。ただ、それは、プロセスのなかで起こってしまうアクシデントではありません。アクシデントが起こるような余白を残しておくことが重要だと考えています。
これは、最近手がけた『PRINT』というアメリカのグラフィックデザイン雑誌です。この雑誌には、1年に1回、ゲストデザイナーを呼んでデザインや編集に関わってもらう仕組みがあります。今号のテーマは、「TRASH(ゴミ)」でした。ゴミというテーマは、環境問題から着想していますが、そのほかにも意味があります。一義的に「エコ=良いもの」とする観点から「ゴミ=悪いもの」として取り上げるのではなく、もっといろんな角度から見ることができるような特集を企画しました。特集記事と表紙を担当し、この号のために「Galaxie Polaris」をベースに書体をカスタムしました。ちなみに、「Galaxie Polaris」は、今回のdddでの展示グラフィックでも使用されている書体です。
私たちが制作した書体「Galaxie Ecosmic」には、テキストサイズではわかりませんが、見出しサイズに拡大すると、文字のなかに文字が入っていることがわかります。これはエコフォントから着想を得ています。エコフォントというのは、文字のなかに白い丸が入っており、使用するインクの量を減らすことができる書体です。この書体では、丸の代わりに、天文学者、カール・セーガンの著作『COSMOS』から引用したテキストを入れました。また、その文字には、「Comic Sans」という書体を使用しています。ここでは、あえて、「Galaxie Polaris」のようなニュートラルなフォントとデザイナーがゴミのように扱うComic Sansを合わせました。これは批判的な試みで、ゴミのような書体とサガンによるポジティブなテキストを合わせています。
「Galaxie Polaris」=銀河のなかにある小さい穴であっても、大きなアイデアを持つべきです。カール・セーガンによる著作にあるように、そういった考えで生まれた書体は、「Galaxie」「Eco」「Cosmos」という言葉を組み合わせて、「Galaxie Ecosmic」という名前にしました。
誌面上では、デザインによる繰り返しやリサイクルをテーマに、リサーチ結果を紙面のヘッダーやフッダーで紹介しています。これは、架空のヘビーメタルバンドの名前を入れています。それっぽいヘビメタのバンドの名前を勝手につくってくれるサイトがあるので、そこでつくったテキストを差し込みました。実在しない名前ですが、インターネットではそういう生成サイトも多く、フランス語バージョンもあるんです(笑)。
ここには、最近倒産した会社のロゴを収集したものを掲載しています。また、アメリカ・アトランタでの政府が情報を集めてタイムカプセルを埋めるというプロジェクトがあるんですが、こちらには、そのなかに入っている情報をコロンの間に差し込みました。これは1940年に埋めて、8117年に開けるそうです。
ヘッダーには、YouTubeで一番つまらないとされる猫の映像に対するユーザーのコメントを掲載しています。このビデオを見てみると、芝生の上にじっと座った3匹ネコが何にもしていません。
コメント欄には、退屈なビデオを皮肉する大げさに褒めた言葉が書かれていて、それがゴミみたいなコメントだなということで掲載しました。みなさんもぜひ検索してみてください。
スルキ:こちらは、昔にプリントされたものをリサイクルして、それをスキャンし、新しい記事の間に挟んでいます。
ミン:ここには、ゴミのなかにある美しさ、美学について記されています。最近亡くなってしまったアメリカで最後の活版印刷の職人について、またボツになったけど素晴らしいアイデアのスケッチについて、経済について、デザイナーが試みている環境の実践についてなどさまざまな記事があります。この号は、とても評判が良かったです。
後藤:ゲストデザイナーとして参加してくれというオーダーだということでしたが、内容にも関わっていたのでしょうか?
ミン:編集部からさまざまなアイデアを聞きながら進めていきましたが、フォントの制作や誌面のデザインを担当しました。もちろん、さきほどの本文以外のヘッダーやフッダー記事は、僕たちからの提案です。